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山月記 / 中島敦

冒頭文

「隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。」

*かな付き
「隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)は博学才穎(さいえい)、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こうなんい)に補せられたが、性(せい)、狷介(けんかい)、自(みずか)ら恃(たの)むところ頗(すこぶ)る厚く、賤吏(せんり)に甘んずるを潔(いさぎよ)しとしなかった。」

“Li Zheng of Longxi was a man of great learning and talent; in the final years of the Tianbao era, he gained a place on the list of successful candidates for the civil service at a young age and was subsequently appointed as an officer in Jiangnan. However, by nature he was unyielding and possessed a fierce pride, finding it intolerable to remain content in a lowly official post.”

一言で言うと?

プライドと劣等感の板挟みから虎に変身してしまった男の独白を通し、人間の内面に潜む「獣性」と孤独を描き出した物語。

A story that explores the “beast” within humans and the resulting isolation, told through the confession of a man who transformed into a tiger due to his excessive pride and insecurity.

主な登場人物

名前役割性格・特徴主人公との関係
李徴(りちょう)主人公秀才だがプライドが極めて高く、人間関係を嫌う。詩人として名を成そうとするが挫折し、虎になる。
袁傪(えんさん)李徴の旧友温和で誠実。役人として成功している。虎になった李徴の言葉を唯一聞き届け、記録する。

【ざっくりわかる】120文字要約

秀才ながら自尊心の強さゆえに孤立した李徴は、発狂して失踪し、恐ろしい虎へと姿を変えてしまう。偶然再会した旧友・袁傪に、虎は涙ながらに語る。自分を虎にしたのは、才能を信じきれず、努力も怠った「臆病な自尊心」であったと。

【じっくりわかる】400文字要約

唐の時代、博学才穎な李徴は若くして官吏(役人)となるが、自尊心の高さから職を辞し、詩人として名を残そうとする。しかし生活は困窮し、自尊心は削られ、ついには発狂して行方不明となる。

翌年、監察御史となった旧友の袁傪は、旅の途中で人食い虎に襲われそうになる。その虎は袁傪の声を聞くと、茂みに隠れて泣き声を上げた。虎の正体は李徴だった。李徴は茂みの中から、自分の身に起きた異変を独白する。

自分が虎になったのは、他者と切磋琢磨することを避けた「臆病な自尊心」と、他者を常に見下していた「尊大な羞恥心」が原因であったと彼は分析する。人間としての意識が消えゆく恐怖の中、李徴は自作の詩を袁傪に託し、残した妻子を養うよう依頼する。最期に、虎となった姿を袁傪に見せ、咆哮を上げて深い森へと消えていった。

English Summary

“Sangetsuki” is a short story based on an ancient Chinese tale. Li Zheng, a brilliant but arrogant scholar, fails to become a famous poet and eventually transforms into a tiger due to his inner conflict. One day, he encounters his old friend, Yuan Can. Hiding in the bushes, Li Zheng confesses that his excessive pride and insecurity (“cowardly self-esteem”) turned him into a beast. He asks his friend to take care of his family before completely losing his human mind and disappearing into the mountains.

時代背景

戦時下の知性と「運命」

  • 社会情勢と出来事:発表された1942年は太平洋戦争の真っ只中である。中島敦は持病の喘息に苦しみ、南洋庁の職員としてパラオへ赴任するなど、過酷な状況下で執筆を続けた。死の直前に発表されたこの作品には、個人の力が及ばない「運命」への諦念が漂っている。
  • 思想的背景: 中国の古小説(伝奇小説)を題材にしつつ、近代的な自己意識や「エゴイズム」という西洋的なテーマを融合させている。当時の知識人が抱いていた「教養があるゆえの孤立」が色濃く反映されている。
  • 文学史上の位置づけ: 漢文調の格調高い文体(擬古文)で知られる。中島敦は33歳という若さで病没したが、その死後に評価が高まり、現代では「国民的教材」としての地位を確立している。

テーマ・読解のポイント

根本テーマ

「自己愛という名の猛獣」。才能を磨く努力(切磋琢磨)を怠り、プライドだけを守ろうとする姿勢が、人間を人間でなくしてしまうという警句。

受験ポイント

  • 「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」の対句表現の意味。
  • 李徴がなぜ最後に、妻子への依頼よりも先に「詩の伝達」を頼んだのか(彼の業の深さ)。

印象的な象徴

  • 「叢(くさむら)の中から躍り出た虎」:内面の自尊心が具現化し、社会や知友から完全に隔絶された、もはや人間ではない姿。
  • 「冷ややかな月光」:李徴の悲哀を冷たく照らす、美しくも無慈悲な芸術的理想や、変えられない運命の象徴。
  • 「白露(はくろ)の地」:虎となって消えた李徴の、はかない運命と失われゆく人間性を象徴する情景。

身近な視点で考えると?

プライドと劣等感の板挟み——。「本当はもっとできるはず」という焦りや、周りと比べて落ち込む気持ち。仕事で成果が出ないとき、受験勉強で思うように点数が伸びないとき、SNSで他人と自分を比較してしまうとき。李徴が虎になった姿は、自分の内面に飲み込まれる怖さを映し出す。完璧主義やプライドが自分を追い詰めてしまう、現代を生きる私たちへの警鐘でもある。

受験・採用データ

高校国語「現代文B」「論理国語」における採用率はほぼ100%に近い。大学入学共通テスト、国公立・私立大二次試験、公務員試験まで幅広く採用。

この作品を読む


紙の本を手元に置きたい方へ

李陵・山月記 文庫 – 新潮社:2003/12/1

*用語、時代背景などについての詳細な注解および年譜つき(*Kindle版には無し)

李陵・山月記・弟子・名人伝 (角川文庫) – KADOKAWA:1968/9/9

*「文豪ストレイドッグス」×角川文庫コラボアニメカバー (*2026/01/28現在)

山月記 ( MANGA BUNGOシリーズ)   (漫画/津寺 里可子) – ホーム社:2012/2/17

*2026/01/28現在、中古本のみ。
*地域によっては図書館で所蔵しているところもあるようだが、ごく一部のみ。

YouTube情報 (参考情報)


【朗読】中島敦「山月記
ー元アナウンサー・古沢久美子の ◆朗読の時間◆

*淡々としていてとても聞きやすいです。

  1. https://www.youtube.com/watch?v=En7hsSjsIIk

【山月記 中島敦】高校国語の教科書あらすじ&解説&漢字〈中島敦〉

*ストーリの裏側にある状況、心情を具体的に解説してくださりとてもわかりやすいです。
*前後編の2本

  1. https://www.youtube.com/watch?v=pngD-10jhzA
  2. https://www.youtube.com/watch?v=svhpBH8a-Oc

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